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第五幕

last update Date de publication: 2025-10-18 22:40:27

「何を言っているんですか姫様。昨日からずっと言ってましたよ。明日、ペテック公爵が見合いに来られるから覚悟しておくようにと。今朝も言ったはずです。まさか聞いてなかったんですか?」

「うん。」

 姫は、真顔で応えてみせた。

聞いていたと言えば嘘になるが、聞いていなかったわけじゃない。聞きたくなかったんだと思う。ペテック公爵に対して私はあまり良い印象を持っていない。

「先月も来てなかったかしら? それに私、丁重にお断りしたはずだと思うんだけど。何でまた来てるの? 早く追い返しなさいよ。ネズミより簡単な相手でしょ?」

「と言われてましても、ペテック公爵は元はと言えば隣国アルト王国の王子でした。それを戦争という形ではなく対話という形で併合し、爵位を与えています。あまり刺激しては反乱を起こされかねませんからね」

「そう。じゃ良いわよ。結婚するわ。多少、お腹が出てて頭の毛が少なくても、この際、気にしない。だから、今晩の社交会はキャンセルしておいて。今夜は、私の婚約記念日よ」

「リアナ様、そんなに早まらないで下さい」

「別に早まってなんてないわよ。ミリア、あなた私が何歳か知ってる? 17よ! いつになったら結婚できるの? もう、社交会に行くのだって恥ずかしいわ。数年前は同い年の子達と、いつ結婚出来きるかな、なんて話してたのに、もう同い年の子なんて誰もいないわよ。みんな結婚していったわ。これじゃ、良い見せ物よ」

姫はいつになく苛立った態度を見せた。と言っても別に私は結婚したいわけではない。単に、この歳になってもまだ結婚できていない自分が恥ずかしいだけ。どこの貴族の娘も14にもなれば婚約者が大体いるもの。でも、私には、それが出来ない……

「それで、お父様は何て言ってたの」

「はい。今回も優しくお断りするように、とのことです」

「はいはい、いつも通りね。分かったわよ。お父様の命令なら仕方ないわね」

姫は体を伸ばし僅かな運動をして身体を慣らした。

「さて…… 次はどう断ってやろうかしら? そろそろ容姿に触れても良い時期だと思うんだけど。このくらいなら問題にはならないわよね?」

「そんな心配なさらなくても大丈夫ですよ。大抵の男は姫様と数分話しただけで嫌気が差して帰りますから。姫様はいつも通り自然体でいれば良いんです」

「あら、言うじゃないオルディボ。でも、良いわよ。私、優しいから今のは聞かなかったことにしてあげる。感謝しなさい」

「感謝申し上げます」

護衛はわざとらしく頭を下げた。ミリ波とアロッサは、どこか慌てた様子で早足に案内を進める。どうにも、予定より早くペテック公爵が宮殿に向かってきているそうだ。おかげで宮廷内が、いつも以上に騒ついている。まだ、早朝だというのに迷惑な話だ。このまま居留守を使ったらどうなるのだろうか? 悪い考えが頭を過ぎる。

「一体いつになったら、お父様は結婚を認めて下さるの? いっそのこと、白馬に乗った王子様が私を連れ去ってくれれば良いのに。あっ! そうだったわ。この帝国の周辺には、もう王国なんて無いんだったわね」

 姫は、どこか開き直った様子で両手を合わせ応える。そう、この帝国は、強過ぎた。ここ数年、帝国外の人間には合っていない気がする。

「でしたら姫様。一つ朗報があります。どうやら聞くところによるとペテック公爵が白馬を乗り回し、こちらに向かってきているそうです。もしかしたら、今日、ペテック公爵が本当に姫様を連れ去ってくれるかもしれませんね」

その瞬間、姫の足が止まる。特別何かあるわけでもなかったが、ペテック公爵の白馬姿が脳裏に過り寒気がした。オルディボの、どこか楽しそうな表情にも腹が立つ。

「アロッサ。今すぐにペンと紙を用意しなさい。それとミリア、貴方お母様が今どこにいるか知っているわよね?」

「もちろんですリアナ様」

男は、やれやれと言わんばかりに頭を抱えた。無駄に長い付き合いなだけあって理解が早い。未だ一人理解が追いつかないアロッサにミリヤが罵声を浴びせるように「急ぎなさい」と指示を出す。

「勅令よ」

姫は不敵な笑みを見せた。この帝国において、皇族の発する勅令は、絶対だから……

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  • 独裁者の姫 一章 影の病   第十三幕

     ——狭く薄暗い部屋で男が一人、本を手に文書を眺める。僅かなランプの光を頼りに見飽きた文書を何度も何度も読み返す。「あなた、まだいらしたんですか? もうとっくに真夜中ですよ。皆さまも帰られましたし、あなたも休んではいかがですか?」「なんだ、まだ起きていたのか。とっくに寝ているものだと思ったが随分と多忙なのだな」 皇帝は本から視線を逸らすことなく応えた。「まさか、あなたに比べたら大したことなんてありません」 皇后は和かに応えた。「なるほど。それで? 私は、まだしばらく残ってやることがある。それが終わるまでは床にはつけない。お前は、どうするんだ?」 皇帝は、ジッと文字の一点を見つめる。「なら、私もしばらく残りますわ。あなたが寝るまでは皇后として、この国の為に何か出来ないか考えてみます」「そうか。それは結構なことだ。なら、また一つ寝る前に覚えて行くと良い。この宮殿内には一つだけ如何なる者も皇帝たる私の許可無く出入りすることが許されない部屋が存在している。それは薄暗く小さく宮殿内に相応しくない作りをしている。しかしだ、もし仮に許可無く、指先一つでも侵入したことが、この私に知られたら…… その日が、その侵入者の命日となるだろう。ところで、なぜいつも、お前が私を見に来る度、私は、この本から目が逸らせなくなってしまうんだろうな。いつも不思議で仕方ない」「どうして……? その本が、それ程までに、お好きだからではないのですか? それか……」「足元に気をつけろ。危ないぞ」「足元…… あっ、ごめんなさい……」 その時、皇后は何かに気づいたかのような様子で、その右足を、ゆっくりと部屋の境界線の外に追い出した。 皇帝は読んでいた本を静かに閉じると、視線を皇后に向けた。「それと、一体いつから、この部屋には自前のランプが置かれるようになったんだ? 何度、勝手に入るなと私は言った? しばらくの間、この部屋の鍵は私が預かっておく。くれぐれも勝手な真似はするなよ」 皇帝は一つため息を吐いた。 「"ランプ……? あなたのではないんですか?"」  皇帝の表情が強張る。咄嗟に持っていた本を机の上に置く。「ッ!?」 足りない…… 何か足りない……「どうかなさいましたか?」 皇后が心配そうに見つめる。「何を見た…… イザベラ、この部屋で何を見た…… い

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第十二幕

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  • 独裁者の姫 一章 影の病   第九幕

    「姫様! そんなに急いでどうするおつもりですか。まずは皇帝陛下にお会いしてから皇族揃って出席するべきです。それに、この式典は姫様の誕生祭半年前を記念したもの。主役が突然現れては皆困惑してしまいます」 一人足速に会場に向かう姫の後を護衛の男が追う。銃を持つ複数人の兵士達も、なんら姫の歩みを止めることが出来ない。「駄目よ。お父様が来てしまったら私は主役になれない。それに周りの人達も怖くて誰も私に話しかけられなくなるわ。……たまには同年代の子とも、お話ししたいのよ」 その姫の表情はどこか寂しげなものだった。思えば、最後に社交会に参加したのも、もう半年も前のことだった。その間、宮廷内部の人間以外とは一切口を交わしていない。「分かりました。ただし、あまり目立たないように入場しましょう。護衛の数も最小限に抑えますが、決して私からは離れないように。警備が万全とはいえ、姫様の命を狙っている輩がいないとも限りません。それと皇帝陛下には私の判断であると説明します。姫様の独断だと思われては、また面倒なことになりますからね」 護衛は幾つかの兵士に命令を出すと、兵力を四人にまで減らした。「あら、随分と気が効くのねオルディボ。てっきり、賛成してもらえないものかと思っていましたのに」「何年一緒に居ると思っておられるんですか。私は姫様が降誕なさった日から今日まで、ずっと側にいるんですよ。少し言ったくらいでは姫様が止まらないことくらい心得ています。それに、こういう時は無理に止めるより勝手に止まるのを待つ方が私の仕事も減って楽なんですよ」 最後に本音が漏れたようだ。姫は「良く、分かってるじゃない」と一言添える。「姫様、今から入場しますが、最後にお酒はほどほどにして下さいね。ただでさえ、多くの貴族達が集まっているんです。下手をすれば皇帝陛下の、お顔に泥を塗る事になります」 二人の兵士が小柄な門をゆっくりと開く。思っていた通りだ。会場は既に無数の貴族達で溢れかえっていた。と言っても、ほとんど見慣れた顔ぶればかりではあるが。「オルディボ閣下、それにリアナ皇女…… ご、ご、ご入場はまだ先のはずですが」 メイドのルカが一人、困惑した様子で話を始めた。「気にしなくて良い。私の判断だ。すでに話は通っている。それより、そのワインをいただいても良いか? あまり目立たないようにしたい。私と姫様

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第八幕

    日が沈み庶民達が眠りにつく中、宮廷内は夜の街を照らす月光の如く輝いていた。屋外に停泊する馬車の数からも、この集会の規模が伺える。会場内を見渡せば、何処もかしこも上品なドレスはスーツを見に纏った紳士淑女ばかり。まさに貴族の社交界に相応しい催しといえよう。 「おいメイド。ワインが無くなった注げ」 男はグラス片手に傲慢な態度で近くのメイドを呼び止める。ワインが注がれると男は礼を言うわけでもなく何食わぬ顔で会場の人々を一望する。男は若さこそ有るものの、その立ち振る舞いから僅かに中年臭さを醸し出していた。 次第に、男はグラスのワインを一気に飲み干すと空のグラスをメイドに預け歩みを始めた。その視界には二人の若々しい男女が映る。 「……そうなのですね。実は私も」 「これはこれは、お二人とも随分と楽しそうですな。私も話に混ぜていただけますか?」 男は二人の顔色を伺うこともせず、ごく自然に話に割って入る。二人も特に疑わずに、それを受け入れる。しかし、あまり歓迎する空気ではない。 「まずは、自己紹介から。私はルーティック侯爵フリーク・ライアンと申します。以後お見知り置きを。それで、そちらは……」 男は隣の女性に視線を移す。 「こ、これはルーティック侯爵お初にお目にかかります。私はフルトン侯爵家次女パクス・アンナと申します。お目にかかれて光栄ですわ」 アンナは身につけたドレスを軽くつまみ頭を下げた。 「おお、これはフルトン侯爵家の娘様。それにアンナ、実に良い名だ、きっと立派なご両親がつけられたのでしょう。いやぁ、私もお会い出来て大変嬉しいですとも。どうです、私と一つ踊っていただけませんかな? 決して恥は欠かせませんよ」 「……すみませんルーティック侯爵。実は既に決まった相手がおりますので、そのお誘いはお断りさせていただきます」 ルーティック侯爵は、ゆっくりと隣に立ちすくむ若い男性に視線を送る。 「おっと、失礼。まだ、お名前を聞いておりませんでしたな。それで、貴方は……」 「申し遅れました。私はフォックス伯爵ナルサ・マイトと申します。本日はお会いできて光栄ですルーティック侯爵」 「伯爵…… 確か、侯爵の一つ下だったような…… いえっ、これは失礼、独り言です。お気になさらず。しかし、まあ一緒に踊っていただけないのは残念ですが"

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第七幕

    一瞬、何を言い出したのか、その言葉に、その場にいた全ての人々の表情が凍りつく。一人、姫を除いて。 「リアナ皇女…… こ、ここは2階だと伺っておりますが、それではワレが……」 「あら、ぺテック公爵。私のためなら命だって掛けられると先程述べたばかりではありませんの。先の熱弁、大変心に刺さりましたわ。どうか、私の期待を裏切らないで下さいね! ぺテック公爵!」 姫は優しく微笑む。今日、初めて向けられた姫の笑み。ペテック公爵の拳に力がみなぎる。 「なりません閣下! おやめ下さい!」 何人かの彼方の護衛達がぺテック公爵を取り囲む。しかし、ぺテック公爵は覚悟を決めた表情で上着を脱ぎ捨てる。

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第六幕

    それから一時間ほどの時が経ち、ようやくペテック公爵が我が宮殿前に姿を見せた。姫は護衛を含めた何人かのメイドを引き連れ公爵の到着に備える。と言っても、私が来たのは数分前のことで特に待っていたわけでもない。あっちが1秒でも遅れたら、すぐに帰るつもりでいる。 「リ、リアナ皇女…… はあ…… お、お久しぶりですなぁ……」 ペテック公爵は、お疲れだった。その太々とした顔から滝のごとく汗を垂れ流し、気味の悪い笑顔をこちらに見せつける。聞いていた通り白馬を連れていたが、ペテック公爵は、リードを握っているだけで乗馬していたわけではない。というより、同行している護衛達も誰一人として乗馬してるものはいな

  • 独裁者の姫 一章 影の病   第二幕

     部屋に入るとすぐに着付けの作業が始まった。ミリアが先導しアロッサがその助手のような形で仕事をする。いつ見てもミリアの手捌きは一流もので手慣れているのが分かる。それに比べアロッサはどこかぎこちなく作業が遅れて見える。まだ、新人だし軽く見てあげても良いかしら?「ちょっとアロッサ! 貴方、何回言ったら分かるの? それは最後にやるから今はこっちを手伝いなさいよ! 本当にも……」「す、すみません。今やります」 人目を気にせずミリヤはアロッサに罵声を浴びせる。私には何を間違えたのか全く見当もつかないが、ミリアには何か分かるのだろう。ここは、ミリアに合わせて少し呆れた様子でも見せておこうかしら? 

  • 独裁者の姫 一章 影の病   一章 影の病 - 第一幕

    ここ最近にあったことと言えば、隣国のヌーク王国が我がディグニス帝国に併合されたことだろう。以前から併合の話は出ていたけど、隣国の君主がいつまでもそれに応じる姿勢を示さないまま6年が経っていた。特に脅威と言えるほどのモノでは決してなかったと思う。でも、我が父、皇帝サリエフの言う限りでは、我が帝国の臣民が幾つか拉致監禁されていると、拷問を受け死者もでている。これらの報復と救済を目的として侵攻をし無条件降伏に持ち込んだと言う。 物騒な話ではある。しかし、今に始まったことでもない。以前から父は似たような口実を持ちかけては武力による領土拡大を進めてきた。そのおかげもあり今や我が帝国は世界でも覇権を

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